【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 正体を皇子であるジルベルトに知られたらどうなるのか。
 ジルベルトは、恩情と生きる場所を与えてくれる。
 優しい笑顔を向けてくれる。
 だがジルベルトとて、私情と帝国の事情を混同することはないだろう。

 皇太子の面前に突き出されるのだろうか。
 冷徹な皇太子が剣の刃を振り下ろす。拝殿の(かたわら)で目を逸らせるジルベルト……そんな恐ろしい絵面(えづら)しか思い浮かばない。

 (すが)るように揺れる碧い瞳。思わず見惚れるほどの秀麗な面輪がマリアを見下ろしている。

「俺が皇子だと知っても、そばにいてくれるか……?」

 ——私が王女リュシエンヌだと知っても、おそばに置いてくださいますか……?

 叶うはずもない願いを、宵闇の空にそっと(はな)った。

「……不眠症、なのでしょう? 眠れないのはとても辛いことです。私は……ひどい環境からあなたに救い出していただいた身です。あなたの、仰せのままにいたします……第三皇子殿下」

 ——この帝国から逃げても、生き地獄を味わうのならば。
 せめてこの命がある限り、あなたのおそばにいたいです。

 潤んだ瞳がジルベルトを映す。
 化粧気のない素顔に派手さはない。だが野辺に咲く可憐な花のように清らかな微笑みは、ジルベルトの不安を晴らすように拭い去る。
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