【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「その呼び方はやめておくれ。これまでと同じように、マリアには名前で呼んで欲しいのだ」
「はい……。あなたがそう望むのならば、仰せのままに……ジルベルトっ」
ソファの座面の上に捕らえた華奢な手を、ジルベルトはふたたび強く握り返す。いずれわかることだと知っていても、これ以上の事実はどうしても打ち明けることが出来なかった。
——まだ二日ではないか。失うには早すぎる。
「こうしてふれていると、気持ちが安らぐ……」
シャツのボタン二つ分を開けた襟元。露わになった鎖骨がすぐ目の前にあって。均整のとれたそれは緩やかな曲線をえがき、まるで彫像のように美しい。
掴まれたままの腕が引かれ、その鎖骨が顔の前にぐいと寄れば、ほのかに甘い麝香の香りがふわりと濃くなった。
—— ぇ?
突然にぐらりと視界が揺らぐ。
ジルベルトの鎖骨にくっついた頬と耳元に、どくどくと力強い鼓動と体温が伝わる。
顔を上げれば、優しく見つめる蒼い瞳と秀麗な面輪がすぐそばにあって、目のやり場に困ってしまう。
「ジルベルト……?! 何を……っ」
ソファから抱え上げられ、薄い絹の夜着を一枚纏っただけの身体を横抱きにされていた。