【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「椅子の上では休まらぬだろう、マリアも寝台で眠るといい」
造作もない事のようにさらりと言う。
ジルベルトが眠るのを見届けるまでに、緊張で心臓が壊れてしまいそう……『憧れの人』と一緒に眠るなんて!
開け放たれた双扉で仕切られ、広い居間とひと続きになった寝室に向かうジルベルトの腕の中。どくどくと暴れる鼓動、緊張と恥ずかしさできゅんと痛む心を奮い立たせる。
——弱気になっている場合じゃない。ジルベルトと眠るのが、私の『仕事』なんだもの。しっかりと努めなきゃ……!
「何も持って来なかったのだな」
横抱きにされた頭の上から、艶めいた声が降ってくる。
「マリアの一番大切なものだよ。てっきり仔猫を連れて来ると思っていた」
「ぁ……はい、申し訳ありません。そのつもりでいたのですが、ジルはまだ小さいので、あなたのお部屋で悪戯をしてはいけないと、心配になったものですから……」
「ジルの次に大事にしているものでも良かったが?」
「ええ、その……。それが思い当たらなくて。そもそも、大切だと思えるようなものを、何も持っていないのです」
逞しい腕の中で揺られながら、胸の前に組んだ両手にぎゅうっと力を込める。