【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 見上げれば、歩き出したジルベルトの長い睫毛と寝室に向く碧い瞳が凛々しくて。
 これからジルベルトと同じ寝台で眠るのだと思えば緊張はおさまらない。けれども、これが自分の『仕事』なのだと心に強く言い聞かせれば、こんなに楽な仕事を与えられている事に感謝の気持ちさえ湧いてくる。

 ——いつまで続けさせてもらえるかわからないお仕事なのだから。
 せめておそばにいられる今は、ジルベルトにゆっくりと眠って欲しい……。

 マリアは手持ち無沙汰の指先で、ジルベルトのシャツを遠慮がちに掴んだ。


 ジルベルトは寝台に歩み寄ると、マリアをそっと下ろす。ふかふかの寝具が身体を受け止めた。
 マリアが体勢を整えるよりも早く、ジルベルトの膝を乗せたマットが深く沈む。

「……っ!」

 片手で肩を押され、仰向けに倒されるマリアの上にのしかかったジルベルトの胸板を必死で押し返した。

「あの、添い寝をするだけで良いのですよね?!」
「ああ。添い寝をするだけだ」

 マリアの後頭部を手のひらで支えながら、頭の下に枕をあてがってくれる。そのまま寝台に横たえられたマリアの身体は、隣に横たわったジルベルトに密着するほどに近い。
 石鹸の香りではない、ジルベルトが普段から纏う麝香の甘美な香りがマリアの鼻先に揺蕩(たゆた)った。
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