【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 天井まで伸びた両開きの扉の脇に立つふたりの侍従が一礼をしてノブを引く。重々しい扉はぎりり、と音を立てて開いた。

 途端、騒めいていた室内が水を打ったように静まる。
 若い女性らが大きな円卓に座っており、窓際に近い奥の席で凛とした気品と威厳を見せる白髪の女性を囲んでいる。女性の隣の席は空いたままだ。

「先ほど後宮入りされた方をお連れいたしました。フィフィー様、アルフォンス大公夫人と淑女の皆様にご挨拶を」

 まずはリズロッテが(うるわ)しく淑女の礼を披露する。
 それを眺める白髪の女性——アルフォンス大公夫人が満足げにうなづいた。


 *


 サロンに集まった十三名の令嬢の自己紹介が終われば、和気藹々とした円卓は若い淑女同士の華々しい会話が始まる。当然、新入りにはこれでもかという質問責めだ。

「……はい。婚約が決まって、お相手に粗相がないようにと、両親が」
「まぁ、ではフィフィー様はデビュタントを済ませたところですのに、すでにご婚約を?!」
「本当ですわ。なんて羨ましい……」
「結婚が決まった方が後宮に来られるなんて、珍しいですわね?」
「成婚式はわたくしが成人してからですし、まだあと二年ありますから」

 婚約が決まって羨ましい。
 その気持ちは本心だ。それよりもフィフィーの婚約という言葉の裏側で、テーブルを囲む令嬢のほとんどが胸を撫で下ろしただろう。

 ——《《この女はライバルではない》》。

「フィフィー様! さぁさ、紅茶を召し上がって! こちらはとても美味しいのですよっ、林檎の香りがするのです」
「こちらのお菓子も、どうぞ召し上がって!」

 華やかに着飾った令嬢たちが、テーブルに加わった『新しい学友』に嬉々と笑顔を振りまくのを……コツコツ!

 テーブルを叩く小さな音が淑女たちの注目を集めた。
 大公夫人の扇子の要がテーブルの天板に触れている。
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