【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「フェルナンド子爵様……っ?!」

 驚いて立ち上がったので、ガタン! はしたなく椅子を鳴らしてしまった。
 仔猫が慌てて膝から走り降り、ふわりと着地する。ぶるっと身体をふるわせてから、碧い()でマリアが見る方向を凝視した。

 ジルベルトよりも年嵩に見えるフェルナンド子爵。それでも二十代後半前後だろう。
 相変わらずの精悍さで、髪の後ろ半分を後頭部に撫でつけている。顔つきに少しの柔らかさも見せず、唇を一文字に引き結ぶ。

「お、お久しぶりでございます!」

 ふかぶかと頭を下げるマリアを、フェルナンドはジロリと一瞥する。顔をあげたマリアの目に映る翡翠の瞳は冷たい光を宿し、マリアという素性知らずの娘を少しも認めていないことがわかる。

「座りなさい、あなたに話がある」
「は、………はい」

 マリアが皇城にやってきたとき、フェルナンド子爵が部屋に案内してくれた。ジルベルトの従者だという彼と言葉を交わすのはあの時以来で、獅子宮殿で見かけてもちらと目が合うくらい。なのに、急にどうしたのだろう——。

 ず、と椅子を引き、子爵はマリアの隣に腰を下ろす。あからさまな威圧を込め、翡翠の瞳が(すが)められた。
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