【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
フェルナンドは片方の眉を、く、と上げる。
ジルベルトが一人のお茶役に一か月も執着するなど考えられなかったことだ。
マリアを見つければ目で追うし、すれ違いざまには必ず声をかける。彼の主君が女性にあんなふうに微笑むのを、フェルナンドはこれまで一度も見た事が無い。
——それが本心だと言うのなら。この娘、《《無自覚》》なのか?!
フェルナンドは嘆息する。
考えてみれば、ジルベルトが女嫌いだと噂されるほど女性に関心を持たなかったなど、この娘は知らぬのだから無理もない。
「良いだろう。いずれにせよ、思い上がるな。下賎な者が、高貴なお方と今以上の関係性を求めるなど断じて許されぬ。あなたへの寵愛はジルベルト様の一時の《《気まぐれ》》だということを忘れるな。伝えたかったのはそれだけだ」
険しい表情のまますっと席を立つ。
黒髪の美丈夫は振り向きもせず、宮殿の廊下の奥へと消えてしまった。仔猫が「しゃーっ!」と背中の毛を逆立てて威嚇をする。
「……フェルナンド子爵様、わかっています」
——初めからわかっている。
この幸せが、長くは続かないことくらい。