【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「ジルベルトの、一時の気まぐれ……」
——不眠が解消されたというのも、「病は気から」と言うように偶然が重なっただけかも知れない。いいえ、その可能性の方が大きいわ。
子爵の言葉がずしりとのしかかり、マリアの心を沈ませていく。
マリアを抱きしめて眠ることも、ジルベルトの気まぐれが過ぎれば消え去ってしまうまぼろしのようなもの——。
ジルベルトの従者で、誰よりもジルベルトを良く知るフェルナンド子爵の言う事だ。
——きっと、正しいに違いない。
「……ジル、帰りましょう」
画集を閉じて、両手に抱える。
肩を落として立ち上がり、歩き出したマリアを、後を追って歩く仔猫が何度も心配そうに見上げていた。
*
「……それで。君たちの調査の結果とは?」
執務机の書類にペンを走らせながら、ジルベルトが気怠げに言う。
既に日は落ちかけ、皇太子の執務室じゅうに橙色の長い影を落としていた。
本宮内にある皇太子の執務室には、マリアと顔馴染みのある数名が呼ばれていた。執務机の前に並んで立つ二人は神妙な顔つきをしている。