【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

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 ジルベルトの自室へと向かうマリアはふと立ち止まり、広々とした回廊の窓辺から空を見上げた。胸元に抱えた大きな画集を落とさぬように気遣う。

 ——今夜のラムダさんはそわそわしていて、なんだかとても変だった。

 繊細なモールディング細工が施された格子状の窓は天井まで届くほどに大きいが、この位置から月の姿は見えない。夜の帷はすっかりと降り、雲のない二十二時の夜空には満点の星が煌めいている。
 皇城中、いや、帝都中の人々が心待ちにしている『星祭り』が近づくにつれて夜空は澄み渡り、星々は誇るように輝きを増していた。

『マリア様。今宵はきっと良いことがありますよ!』

 湯浴みを済ませて夜着を身に付けるマリアを手伝いながら、ラムダは終始笑顔を絶やさなかった。マリアの長い髪を梳かす時も、なぜだかいつもよりも念入りに髪に香油を馴染ませていたような気がする。
 マリア以外の他者を寄せ付けず、凛とした佇まいを崩さぬラムダのあんなに緩んだ表情(かお)を見たのは初めてだ。

 ——良い事があるって、ラムダさんはどうしてわかるのかしら。
 もしかして、流れ星が降るとか……?

 星空を目を凝らして見てみるけれど、特に変わった様子は見受けられない。
 マリアは再び足を進めた。
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