【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「あの……」
顔を背けたまま、ジルベルトはマリアを見ようともしない。そうかと思えば右手を持ち上げて困ったように前髪を掻き上げ、そのまま静止する。
いつもと変わらぬラフな部屋着で、髪だっていつもと変わらず濡れたままなのに……綺麗な碧い瞳に滲ませる彼の感情だけが、明らかに違っていた。
「……ジルベルト?」
身体の具合でも悪いのだろうか。
だがいつだって部屋を訪ねたマリアを優しく気遣い、熱があっても弱音など吐かず平気だと言い張る人だ。
「ああ、すまない。中に、入るか……?」
——入るか、って、どう言う意味でしょう?
入らない、なんて選択肢は、これまで一度も無かった。
「どこか、具合でも悪いのですか?」
「いいや、そうではないが」
ちら、と目が合えば、やはりすぐに逸らせてしまう。しまいには不機嫌そうにうつむいて、
「……入って」
ひどく気まずそうにマリアを招き入れようとする。ジルベルトがこんなふうでは、マリアとて易々と従うわけにはいかなかった。
「あの……もしも、私がお部屋に入ることをお望みでないのなら……今夜は、帰ります」
そうは言ったものの。
マリアを揶揄い、冗談を仕掛けては戸惑わせるのが好きなジルベルトのこと。
心のどこかで期待をしていた。これも何かのサプライズで……いつものように「冗談だよ」って、笑ってくれる——。