【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
だがそんなマリアの淡い期待はすぐに打ち砕かれることになる。
「……そうだな。折角来てくれたところをすまないが、今夜は一人で眠りたい」
マリアの胸の内側に痛々しい衝撃が走る。
相変わらず目を合わせてもらえないし、それに見た事もないほど不機嫌そうだ——まるでマリアの来訪を迷惑がっているかのように。
——どうして……っ
短い間にマリアは想いを巡らせる。昨夜から今朝方にかけて、添い寝中に何かまた粗相でもしでかしたのだろうか。
記憶は全く無いけれど、寝相が悪くてジルベルトを蹴飛ばしてしまったとか、変な寝言を叫んで引かれたとか、知らぬ間に歯軋りしていたとか、口を開けて大いびきをかいて寝ていたとか、それとも、それとも……。
頭の中がぐるぐる回っている。
それでも今は少しでも早く機嫌の悪いジルベルトを解放し、マリアは自室へと戻った方が良さそうだった。
「わかり、ました。では……おやすみなさいませ。失礼、いたします」
もう怖くてジルベルトの顔を見上げることができない。
ゆっくりと丁寧にお辞儀をして半身を低くしたまま、ジルベルトが扉を閉めるのを待った。
「……おやすみ」
低い声が小さく告げる言葉と、ガタンと重い扉が閉まる音を聞いたあとも——マリアはしばらくのあいだ、頭を上げることが出来なかった。
冷たくなった指先が、震えている。
何だかひどく悲しくなって、画集を抱える両手に、ぐ、と力を込めた。