【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!


 —————*


 失意のまま自室に戻ったマリアを待ち構えていたのは、銀色の皮毛が艶やかに輝く仔猫のジルだ。
 ラムダが言うには、どうやらジルはマンチカンという種類の猫らしい。

「みゃー!」

 ジルは窓辺に置かれた猫用のベッドで眠っていたが、部屋を出たばかりのマリアがすぐに戻って来たので何事かと驚いた様子を見せた。
 だが大きく伸びをしてから短い足でちょこちょこと駆け寄り、マリアの足元に身体を擦り寄せた。

「ジル……っ」

 抱えていた本をそっと床に置き、猫を抱き上げて小さなピンク色の鼻先に自分のそれをくっつける。まだ子供の猫はマリアに精一杯の愛情を示そうとするように、マリアの鼻先をぺろぺろと舐めはじめた。

「ふふっ、くすぐったいわ、ジル……。でも有難う。あなたが出迎えてくれたから、気持ちが少し落ち着いたわ」

 それは、マリアが自分を励ますための言葉だった。
 ほんとうは心の中が空っぽで、まだ何が起こったのかきちんと飲み込めてはいないのだ。
< 236 / 580 >

この作品をシェア

pagetop