【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「みゃー」
「ごめんね、ジル……。心配してくれるのは嬉しいのだけど……少しのあいだ、一人にしてくれる?」
仔猫を床に下ろせば、両腕がだらりと下がる。マリアの腕はもう、重力に逆らう力さえも失っていた。
明かりを灯さない部屋は全体に深い蒼みを帯びていて、月明かりが差し込む窓辺だけがぼうっと白く明るい。
マリアは鉛のようになった足を引きずりながら、とぼとぼと窓辺に向かった。
両開きの窓を開ければ、心地よい夜風が入ってくる。ストロベリーブロンドの長い髪がふわりと風になびいた。
満点の星空は、先ほど回廊で見たのと同じように煌めきながらマリアを見下ろしている。
檸檬の色形に似た月が、周囲の小さな星たちを見守る母親のように優しい光を放っていた。
——ジルベルト、どうして……?
回廊を歩いている時から、同じ言葉が頭の中を回り続けている。
マリアから冷たく目を背けるジルベルトは、昨日までとはまるで別人のようだった。