【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
人生には限りがある。
その一言が、マリアには深く心に響いた。
《《本当のマリアの姿》》を知る者たちは皆んな死んでしまった。
自分に与えられた時間は、あとどのくらい残されているのだろう。
——私の命だって、いつ失っても不思議ではない。
今この瞬間でさえ、皇城にいるうちは常に殺されてしまう危険にさらされている。
血まみれの剣を掲げた皇太子の甲冑の後ろ姿が脳裏に蘇り、背筋がす、と冷たくなった。
これまで限りある人生のほとんどを亡国の離塔で過ごし、マリアは祭りと言うもののひとつさえも、経験した事がなかった。
煌びやかなものや、賑やかな場所に一度も出向かずに終わる人生なんて、マリアとて望んではいない。
「そう、ですね。私もそのお祭りを、帝都を、見てみたいです」
「マリア様……良かった、ぜひ参りましょう。美味しいものを食べて一日遊び回れば、きっと気分も晴れます…… !」
「美味しいもの、ですか?」
「ええ、『帝都名物』と言われるものがたくさんあって。きっとマリア様が体験した事のないものばかりですわ」
想像を膨らませはすれど、見たこともない新しい世界に想いを馳せ、マリアは虚ろだった眼差しをようやく輝かせたのだった。