【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 中にバケツを運び入れる。何かあればすぐ逃げられるよう、独房の鍵は開けておいた。

 看守が言ったように、床はほとんど汚れていない——拷問によって受けた傷が流血するほどに深くないのだろう。
 うつ伏せて横たわる男をなるべく見ないようにしながら、ザッとバケツの水を床に流した。薄らと付いた紅い染みを洗い流せば、もうマリアのすることは無くなった。

 ——生きて、ますよね……?

 気を失うまで拷問を受け、そのまま放り込まれたのだろう。椅子に座らされていたのか、男の背中は着衣の乱れもなくきれいだった。

 ——ひどい……(ムチ)で打たれたあとだわ。

 傷を負った者を目の当たりにすれば放っておく事ができないと、マリアは自分の性格をよく知っていた。

 あらかじめ用意していた木箱を男のそばに持ってくる。蓋を開け、消毒液と包帯を取り出した。
 男の身体の下に両腕を滑り込ませ、よいしょ! と、力を込めて抱え上げる。

 男性の肢体はずっしりと重い。それでもどうにか男を仰向けにして、膝の上に男の頭を乗せることに成功した。
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