【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「マリア」

 良く知る声が、艶のある声が……頭の上から降ってくる。
 《《大きな気配》》が、衣擦れの音とともにマリアと接するほどの近さで膝をついた。同時に外套(ローブ)の裾から逞しい腕が伸びて、マリアの肩を力強く抱き寄せる。

 —— ぇ…………?!

 甘美な麝香(じゃこう)の香りがふわりと揺蕩(たゆた)う。
 目蓋を開けておそるおそる見上げれば、マリアが知る、凛々しい眼差しがすぐ目の前にあった。
 幻ではないかと何度もまばたきを繰り返すマリアを、碧い瞳が優しく見下ろしている。

「ラムダは大丈夫だ。心配しなくていい」

 肩を抱く大きな手のひらが、マリアを励ますようにぐっと力を込めた。だが無情にも、力強い手のひらはマリアの肩からすぐに離れていってしまう。

 それは……ほんの僅かな時間。
 肩に感じた懐かしいあたたかさが離れてしまうのが、ひどく名残惜しかった。

 騒めく周囲の喧騒のなか、マリアの肩を離れた腕はラムダの身体を抱え上げ、(ひざまず)いたその膝の上に横たわらせる。

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