【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 碧色(アイスブルー)の瞳が、海のように堂々と、マリアに微笑みかける。

「マリアは慌てただろう。ラムダに大きな怪我はないが、手当てをするまでは歩かせない方がいい。馬車まで運ぶから、はぐれないように付いて来られるか?」

 息を吸うのも忘れそうになるほど、ふたりを食い入るように眺めていたマリアは、思い出したようにやっと小さく息を吸い込み、こくりとうなづいた。

「おーおー。子供も姉ちゃんも無事だったみたいだぜ?」
「そうか、良かったなぁ」「まったく、とんだ人騒がせだ……」

 群がっていた人々が方々(ほうぼう)に散ってゆく。礼も言わずに逃げ去ったのか、ラムダが下敷きになって救った子供の姿は見当たらなかった。

「心配させてごめんなさい、マリア……!」

 穏やかに頬を撫でる風に乗って、楽隊が奏でる乾いた音が耳に届いた。
 自分の目に映るものがまだ信じられず、マリアはアメジストの瞳を大きく見開いたままだ。

「ジルベルト様、あなたの馬は?!」
「君たちが昼食を摂っている間に、そこの(うまや)に預けた。ラムダ、君の『祭り』はここまでだ。残念だな?」

「今朝の《《打ち合わせ》》通り、帝都にマリア様を送り届けたら、わたくしはすぐに去ると思っておられたでしょう? 馬を鳴かせてまで、『早く帰れ』と訴えてらっしゃいましたものね……!」

 ラムダを横抱きのまま抱えなおし、ジルベルトはすっと立ち上がる。
 そしてマリアに目配せをしてから歩き出した——これから帝都の入り口付近に待たせている馬車に向かうようだった。
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