【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「気付いていたのなら、何故すぐに従わなかったんだ?」
「ジルベルト様だって。ずっとあんなに《《照れて》》おられたじゃないですか!」
「それはッ……」
「マリア様と早くふたりきりになりたかったのでしょうけれど? マリア様は《《五日も》》放っておかれたのです。ですから、罪深いジルベルト様に軽くお灸を据えて差し上げたのですわ!」
「いや、単に放置していたわけじゃない。これにはちゃんと事情があるんだ……」
「いったいどんな事情だか。それにわたくしだって、少しはマリア様とのお祭りを楽しみたかったですし」
畳み込むように告げるラムダに対して、落ち着き払ったジルベルトは口元に薄らと笑みさえ浮かべている。
「その所為で怪我をしてしまったろう? 君の父上に、俺はなんと言い訳をしようか」
「父がどう思おうと。これは……名誉の負傷です!」
マリアはジルベルトの濃紺の外套の背中の後ろを歩いた。
周りの人よりも頭ひとつぶんは背高い、大きな背中だ。はぐれたくても、はぐれようが無い。
この数日、夜も眠れぬほどに恋焦がれたジルベルトが、すぐ目の前にいる。
目を逸らさずにマリアを見つめて、話しかけてくれた。マリアを安心させようと、肩を抱いてくれた。
そのジルベルトは今。
ラムダを腕に抱き、二人は親しげに会話を交わしている。
勿論、ラムダが無事だったという安堵が一番大きい。
だが——心が苦しかった。
胸の奥が、重いものに押し潰されそうになる。
マリアは自分の気持ちに収まりがつかぬまま、ただ震えるだけで、言葉が何も出てこないのだった。