【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
微笑みは甘く心を溶かして
ジルベルトは、政務机に山と積み上げられた書類の攻略に費やした、この五日間という日々に思いを馳せた。
丸一日皇城を空けようと思えば、期日までに仕上げなければならぬものをどこかで消化する必要があった。
だが昼間は、謁見や公務で普段以上の時間は取れない。
『しばらく、一人で眠る』。
思案を巡らせたジルベルトは、そこに深夜の睡眠時間をあてたのだ。
マリアと眠るようになってから、不眠はほぼ解消されたと言っても良かった。
真夜中を過ぎれば、日中の激務からの睡魔が襲ってくる。
それでも夜を徹してまで書類の山と向き合うことができたのは——その眼裏に、マリアの愛らしい笑顔を何度も思い描いてこそだった。
「政務があるから、頻繁に皇城の外に連れ出すことはできないが。年に一度の帝都の『星祭り』を見せたいと思った。そして俺が見たいのは、マリアの泣き顔じゃない。笑っている顔だ」
眉尻を下げたまま見上げるマリアの頬を、ジルベルトの手のひらがそっと包みこむ。その手のひらは大きくて、やはりとてもあたたかい。
「だから今日一日は……この俺のために、笑顔でいてくれないか?」