【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

幕間 * 王女と従者の苦悩


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 後宮の庭にあるテラスで、リズロッテは深くため息を吐いた。
 アルフォンス公爵夫人による午前の淑女作法指導時間が終わり、皇宮書庫室での読書時間まではあと一時間もある。

 先ほど軽く昼食を済ませたけれど、それほど食欲があるわけでもなく、お気に入りのこの場所で紅茶と茶菓子をお供に時間を潰していた。

 呑気な令嬢たちが回廊に立ち、若い侍従を相手に会話を弾ませている。
 真冬の一月であっても南国に位置する帝都の気温はさほど下がることはなく、日中はひだまりのような暖かさだ。

「……気持ちいい」

 爽やかな風が頬を掠めていく。
 五感をくすぐられる、とでも言うのだろうか。こうして目を閉じると、木々の葉がすれあう音が心地よく耳にまで届く。

 後宮は、色々な意味でとても居心地が良かった。
 アルフォンス公爵夫人の淑女教育は言うまでもなく、後宮の設備をはじめ与えられた自室の素晴らしさや、帝国一を誇る美食の数々……。
 それに、自国のそれをはるかに超える壮大な規模の皇宮書庫室はリズロッテの気に入りだ。

 だが、デビュタントを済ませてすぐこの後宮入りをしたリズロッテのタイムリミットは、もうすぐそこまで来ていた。
 丸二年を迎える今年の春までに、後宮(ここ)を出なければならないのだ。

「はぁぁ……もう、どうすればいいの」

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