【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「お二人とも、どうなさったの?! ほら、深呼吸を……とにかく落ち着いて……?」
「これが落ち着いていられますか。先ほど星祭りから戻った侍従が……っ、見かけたのですって……!」
ジルベルトに誘いを冷たくあしらわれてから、『星祭り』のことは胸の内からすっかり追い出していた。あの時の屈辱と失望なんて、思い出したくもなければ考えたくもない。
「そういえば。今日はお祭りの日でしたわね。見かけたって、何を?」
「お忍びの……ジっ、ジルベルト殿下と、見たこともない若い女が……《《手を繋いで》》歩いていらっしゃったと……!」
ふうふう言いながら、エミリオがまくし立てる。
そのあまりに《《滑稽な》》言い分に、リズロッテは鼻を鳴らしてしまう。
「ごめんなさい……ちょっと微笑ってしまいましたわ! 幾らなんでも、それはないでしょう。その侍従が見間違えたのよ」
「それが、そうではないのです。二人はそのまま、《《あの》》フェンリル・ブラウン商会に入って行かれたそうですの!」
「……ぇ、なんですって?」
「皇室御用達の、ブラウン商会です。あそこは一般人が容易に足を踏み入れられる場所ではございませんもの。きっと殿下に、間違いありませんわ……」
リズロッテの背筋に冷たいものが流れた。
「では、その若い女というのは……」
「おそらく例の下女ですわっ」
王族・上位貴族令嬢たちはみな、気位は高いが自分たちの立場をしっかりと弁えている。だが切羽詰まったリズロッテに立場もへったくれもない。
他でもない、自国の存亡がかかっている——。