【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
——あれは……殿下に想いを寄せるリズロッテ王女。あとの人は王女の友人か。
「……ぇ、なんですって?」
「皇室御用達のフェンリル商会です。あそこは一般人が容易に足を踏み入れられる場所ではございませんもの。きっと殿下に間違いありませんわ……」
——何という事だ……!
フェルナンドが嘆息とともに寄せた眉根が深い皺を刻む。
きちんと押印した政務書類を山と積み上げ、空っぽの政務机を残して皇太子は今朝から忽然と姿を消していた。
——あの女を連れてブラウン商会になど、何をしに?!
ブラウン商会といえば、帝国随一を誇る衣装屋だ。その目的ははっきりとしている。
——殿下は……あの男は! いったい何を考えているのだ……!!
フェルナンドの整った面輪には、積み重なった怒りが濛々と滲み出ていた。
——帝国をまとめあげ、帝国のために生きねばならぬ男が、あのような下女にうつつを抜かしている場合ではないだろう!
「何らかの手を、打たねばならん」
ダン!!
フェルナンドの怒りの鉄拳が、回廊の壁を壊すかと思うほどに強く打ち付けられたのだった。