【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
始章 マリアの新たな仕事
月明かりの下で
「ちょっとマリア……また皿を割ったのかい?! 今週に入って三度目じゃないか……」
厨房の床に散らばる陶器の破片とともに、厨房長の女のけたたましい罵声が飛んだ。
申し訳ありません、と慌てた様子で頭を下げるのは——この国の者には珍しい、ストロベリーブロンドの髪色とアメジストの瞳を持つ下働きのマリア。年齢はせいぜい十七、八といったところだろうか。
「まったく、洗い物もろくに出来やしないだなんて。ここはもういいから! アレッタ様のところに行って、別の仕事を回してもらいな。ああそれから。お皿を割ったぶん、今夜のあんたの食事は抜きだよ!」
「……はい」
マリアは皿の破片を拾いながら小さく返事を返す。
彼女の隣にすっとひざまずいたのは、使用人仲間でルームメイドでもあるクロエだ。
破片を拾うのを手伝いながら、クロエはマリアにそっとウィンクを送る……気にすることないって。
一年ほど前にウェイン城に流れ着いてからというもの、マリアは下働きの使用人として持ち場を転々としている。
そして数日前、この(まるで戦地のような!)厨房に配属になった。
友人の優しさは身にしみて嬉しかったけれど、何よりドジすぎる自分が情けない。
ウエストエンパイア(西帝国)の端っこにあるこのウェイン城に身を隠し、使用人として働き始めてからすでに一年が経つというのに……どこに行っても、何をしてもうまくいかないのだ。