【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「帝都の街を友人たちとここからよく眺めていた。君が知るフェルナンドも、その頃からの大切な友人の一人だ」

 十年ほど時を遡り、ジルベルトは成人前の帝立学園時代にまで思いを馳せる。
 果てなく続くこの景色を一望しながら、いつか自分たちの手で笑顔の溢れる世界を創る。そんなやみくもな野望に胸を躍らせた頃もあった。

「笑顔が溢れる世界を創る……なんて笑わせるだろう? あの日に抱いた野望など、この広い世界の前ではとても刃の立たぬものだ」

「そうでしょうか……。帝都の人々は皆んな笑顔で、とても幸せそうでした」
「自負できるものがあるとしても、所詮はこの下の帝都くらいだ。数年前に比べれば平和になったと言え、世界から戦争が無くなることは無いし、堕落した王族の煽りを受けて貧民は増え続けている。帝国のなすべき責務が尽きることはない」

「私の言うことなど、ただの理想論だと思われるかも知れませんが……それがたとえどんなに遠いとわかっていても、一歩を踏み出さなければ永遠に辿り着く事はできません。
 一歩ずつでもそれを成し遂げようとされているあなたは、とても立派だと思います」

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