【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 知らぬ間に、息を吸うのを忘れていた。

 大海原に煌めく宝石を散りばめたようなその美しい光景は、マリアの視界を、心を奪った。
 星たちが輝く青紫色の夜空と帝都の街に灯された光のオーナメントが、まるでひとつの『輝く世界』を作り上げていた。

「帝都の街の輝きを見せたかった。形のある物はいつか壊れる。だが記憶は失わない限りずっと残るから。近い未来、あのまばゆい光で帝国のすべてを照らしてみせる……戦火の無い平和な治世だ」

 眼下の光の中に低く溶けこむような、けれど揺るぎない言葉が静かに耳に届く。
 ジルベルトならばきっと、その誓いを現実のものにするだろう。

 そしてマリアはようやく息を吸うことを思い出す。
 鍵の入った白い箱を、胸の前でぎゅっと握りしめた。

「『星祭り』は、平和の象徴なのですね……」

 心が震えるような感動に包まれたまま、ジルベルトを見上げれば。

「ラムダから聞いたんだ。誕生日おめでとう。鍵のガーネットは一月の誕生石だ。そしてありがとう……。この世に生まれてくれたことに礼を言うよ」

 碧い瞳の優しい眼差しとともに降ってきたのは、一条の光のような言葉。

 —— リュシエンヌ、お誕生日おめでとう。
 あなたはわたくしの希望です。

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