【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 この世でたった一人、生まれたことを祝福してくれた母の言葉と面影がジルベルトの言葉に重なる。
 弟姉妹にどれほど蔑まれても、虐げられても。 母の言葉さえあれば平気だった。

 ———リュシエンヌ。
 わたくしの可愛いリュシエンヌ。
 生まれて来てくれて、ありがとう。


 何故だろう。
 目に映るたくさんの光が、水の中にいるように滲んでよく見えない。


「……マリア?」

 まばたきすら出来ぬほどに動けなくなってしまった身体が、凛々しい腕の中にそっと包まれる。
 心を溶かすぬくもりの中にいても、まだ言うべき言葉を見つけることが出来ない。

 ——フェルナンド子爵が言ったように、一時の気まぐれなのかもしれない。
 皆の前に進み出て皇太子に見つかれば、ジルベルトのこの気遣いの全てが無駄になってしまうだろう……それでも。

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