【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「ふっ……苦しい」

 思わず持ち上げた手はすぐに掴まれて、指と指とが絡まって。
 そのまま寝具の上に縫い留められてしまう。

「呼吸のしかたなら、そのうちにわかるよ」

 ——本当に可愛いな。

 大切にしたい気持ちと同じくらい、めちゃくちゃにしたいと思う気持ちがせめぎ合っている。
 再び唇を重ね合わせたい衝動を押しやり、今度は月明かりに青白く照らされた滑らかな額にキスを落とした。

 そのまま傷ついた耳朶をいたわるように熱い息を吐いて甘噛みすれば、マリアの唇からこぼれ落ちた声が耳を掠めた。

 その何とも愛らしい嬌声が、どうしようもない切なさでジルベルトの胸を締め付ける。
 くちづけをしただけでこんな気持ちになったのは初めてだった。

 どれほど愛おしくとも、腹の奥底から湧き上がるものを抱えても。
 いくらマリアがジルベルトの『お茶役』とはいえ、流石に夜伽として抱くことはできない——大切だからこそ尚更。

  腹の底から押し上げる熱を両腕の力に代え、マリアの華奢な身体をぎゅ、と抱きしめた。

「……傷口は痛まないか? ……本当に、すまなかった」
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