【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 ジルベルトが、今、何かを呟いたような気がしたのだが。
 聞き取ることができなかったその言葉は、宵闇の中に静かに溶けていった。

 くちづけを交わすまでは、ゆるゆると燃えるだけの炎だったはずなのに。
 マリアもまた、身体がまるで劫火に炙られるようにくるしかった。

 出口のない熱が体の奥でどんどん膨れ上がっていく。とろけそうに甘やかな言葉を放っておきながら、マリアを抱きしめるジルベルトの力は少しも抵抗できぬほどに強くて熱い。

 そしてマリアは——
 はじめてのくちづけの余韻の中、少しも眠ることができないのだった。

 (あかつき)の女神がその手を差し伸べて、神々しい暁光がジルベルトの寝室を照らすまでは。

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