【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
それでも、マリアはゆっくりと足を進める。
独房の中はとても静かだ。
鍵を開け、屍のように横たわる男を見ようとするのだけど、目に飛び込んで来た『鮮烈な赤』に心がすくんでしまう。口元を指先で覆ったまま、マリアは目を細めた。
まず、男の背中の様子が昨日とは全く違っている。
身体の表面と同じように……いや、もっと酷いかも知れない。幾重にも重なった鞭打ちの跡が、目を背けたくなるほどに痛々しい。
「あぁ……」
男の身体の下から流れ出た血の上に、物ともせずに膝をつく。
躊躇いがちに震える腕を伸ばし、昨日したのと同じように男を抱え、頭部を膝の上に乗せた。
「どうして……。ここまでされなければいけないの……?」
翼の睫毛は固く閉じられている。青い月明かりを受け、あんなに美しかった男の頬が、額から流れ落ちたもので真っ赤に染まっていた。
「どうして」
白銀の前髪が血糊でべっとりと張り付いた額に、指先でそっと触れた。目頭が熱くなり、込み上げた涙が頬を伝って男の頬に転々と落ちた。
「ぅぅ………」
わずかに開いた男の唇から絞り出すような声とともに、閉じていたまぶたがゆっくりと持ち上がる。