【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 だとすれば恐ろしいことだ。
 もしもマリアの素性を、(おおやけ)に暴かれてしまったら——。

 ここ二日ほどは、何をしていても身体の奥底から湧き立つ恐怖心に駆られ続けた。だが三日目にもなると、マリアの気持ちも徐々に冷静さを取り戻しはじめていた。

「リュシエンヌ。……いつか必ず、《《その日》》は来るの」

 ——今更、恐れていたって仕方がない。
 《《その時を迎える覚悟》》は、もう出来ているのだから。

 マリアを慰めるように、柔らかな枕が冷たくなった頬をふわりと包んでくれる。
 こんなに居心地の良い環境を与えられていることを、改めて有難いと思った。

「ジルベルト……っ」
 ドレッサーから持ち出した猫の編みぐるみをぎゅ、と抱きしめる。

 マリアが眠れない理由はそれだけでなく、もう一つあった。
 予想もしていなかった事実を、今朝、アーニャから聞かされたのだ。
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