【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 アーニャはマリアに何を伝えようとしたのだろう。
 仔猫の行動への注意なのか、それとも。

「……婚約……?」
 ああ、これで辻褄が合う。


 ——ジルベルトは、婚約、するのね……


『いつまでもそばにいたい』。

 淡雪のような想いを、マリアは胸の内に秘めている……たとえそれが叶わぬ願いだと知っていても。

 だがジルベルトは『許される限りそばにいてほしい』と言った。
 きっとその令嬢との婚約が近い事を見越して、期限を切ったに違いない。

 ——追う者と追われる者が一緒にいるだけでも罪深いこと。互いに真実を知らなかったから、なんて言い訳。
 ジルベルトは皇太子、そこに抗えない結婚があるのは当然のこと……っ。

 溢れ出そうとする感情を必死でなだめた。
 そうでもしなければ胸が押し潰されそうだった。

 消し忘れた洋灯が、薄暗いマリアの寝室に揺らめく炎の影を落としている。
 横になりながらふと目をやった本棚の本の中に、幾つかの絵本と並んで『童話・人魚姫』があるのを見つけた。
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