【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 これもすぐに忘れそうになるが、ジルベルトは泣く子も黙る大帝国の皇太子——すなわちは次期皇帝陛下。

 本当なら下働き風情のマリアなど、指一本ふれる事も許されぬほどの身分を持つ人なのだ。
 ましてや女の方から《《こんな事》》を言い出せば、下劣な女だと嫌悪で端正な面輪を歪めるかも知れない。

 震えはじめた指先が、怯んだ弱い心が。ジルベルトのシャツをうっかり離しそうになるのを必死で耐えた。
 思い切って顔を上げる。間違いなく頬は真っ赤だ。

「まだ行かないで、欲しいです……」

 首を傾げる面輪が歪むのを見るのが怖くて、碧い瞳から目を逸らせたくなる。
 意を決して立ち上がり、唇を強く噛みしめた。
 背高いジルベルトの面輪は、それでもやはり見上げるほどに高い。

「会えなくて、寂しかったので……あの……私……っ、あなたを、抱きしめてもいいですか?」
< 393 / 580 >

この作品をシェア

pagetop