【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 行ってもしもあの日のことを問われたら、堂々と応えよう。
 何かの間違いであり、見た者の勘違いだと。

 私はただの『マリア』であって、リュシエンヌという名など聞いたこともない。
 バラ園で動揺してしまったのは、突然に大きな声が聞こえて驚いたから……ただそれだけだと。


 *


 肖像画の廊下を抜けた先を『後宮』と呼ぶそうだから、今立っている場所もその後宮に含まれるのだろう。
 マリアが連れて行かれたのは、獅子宮殿のそれとは比べ物にならない規模の壮麗な中庭だった。

 手入れの行き届いた花壇の隅々にまで薔薇のアーチを囲む季節の花々が咲き乱れ、何とも言えぬ優しい薫りを放っている。
 百人以上は優に招待できそうな広々としたテラスは、床一面が白っぽい石張りだ。
 その上にゆとりを持って並べられた十人掛けの長テーブルは、ざっと見ただけでは数えきれない。

 ——素晴らしいお庭……!
 
 思わず感嘆の声が漏れた。
 マリアの祖国シャルロワの宮殿の庭など、ほんの小さなものだったと気付かされる。

 本の中でさえ、これほど美しい庭は見た事がない。
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