【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 《《花畑》》の中から、す、と白い手が上がる。

 こほん、とひとつ咳払いをして立ち上がったのは、マリアと同い年くらいの——華奢なのに女性らしい丸みを帯びた、しなやかな体つきの美しい少女だ。

 他の女性たちも皆それぞれが似合う化粧を施し、似合うものを身につけ、髪を華やかに結えて…… 自分たちの美しさを際立たせる術を良く知っているように見える。

 マリアは、もうそれだけで心が縮む思いがした。

 ——後宮には皇族のお妃候補となるような選ばれた方々が集うと聞いている……ジルベルトの婚約者候補だという公爵令嬢も、もしかして、この中に……?

「大公夫人がお見えになるまで、《《古参の》》リズロッテ様に指揮を取っていただくのは如何かしら、皆さま?」

 賛成とばかりにパチパチと拍手が起こり、少女が席に着く。
 代わりに立ち上がったのは、山吹色の丸い花びらを重ねたようなドレスが似合う整った顔立ちの令嬢だ。
 リズロッテ、と呼ばれた彼女は席を立ち、軽く一礼をする。

「お名前は確か……マリアさん、と仰いましたわね。わたくしはフォーン王国の王女、リズロッテ・ジェラルディ・フォーンと申します」

 その声を聞いてゾクリとする。
 獅子宮殿のバラ園でリュシエンヌを呼んだ女性の声と似ているような気がしたからだ。
 だがフォーン王国もリズロッテ王女も、マリアには全く記憶もなければ面識もない。
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