【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 リズロッテの緋色の()は爛々とかがやき、マリアへの敵意は他の令嬢たちの比ではないような気がした。
 背筋が寒くなるのを感じながら席に着くと、隣の令嬢がこそりと話しかけてくる。

「リズロッテ様ったら……夢と希望を絶たれて、自暴自棄になってらっしゃるのですわ。あの方は以前からそういう所がありましたけれど、浅ましいわね」

「ぇ……?」
「申し遅れましたが、マリア様。先ほどまでのご無礼をどうかお許しくださいませ。わたくしたちは存じ上げなかったのです。マリア様がそのお胸元に、『鍵』を———」

 隣の令嬢の言葉と、年嵩の女性の、どっしりとした威厳と気品とを滲ませた艶のある声が重なった。

「待たせましたね。皆、揃っていますか?」

 途端、令嬢たちが一斉に席を立ち上がったので、マリアもそれに従う。
 豪華だが品のある意匠のドレスを纏った女性が、衣擦れの音とともにマリアの背後を通り、角向かいの席の前に立った。

 ——この方が、アルフォンス大公夫人……。

 大公夫人がマリアを見て何を思い、聡明そうに引結ばれた唇がどんな言葉を放つのか。
 先ほどまでの令嬢たちの態度を思うと心配になり、マリアはこくりと苦いものを飲みこんだ。
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