【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 大公夫人の重く伏せた眼差しは、マリアの胸元の『鍵』に注がれ続けた。

 マリアの挨拶を聞き終えた大公夫人は、その流暢さに驚きながらも和やかな表情を取り繕う。
 だがその心根は、薔薇の花弁をも散らす春の嵐のように激しい動揺に揺れていた。

 令嬢たち皆が席につき、糊の効いたシャツとベストを整然と着こなした給仕たちが、白い湯気を立てる紅茶を鈴蘭のような形をしたティーカップに注いで回る。

「後宮が誇るパティシエールが茶菓子を用意いたしましてよ。マリアさんは遠慮なさらず。後宮の淑女の皆さんも意義深い時間になるでしょう」

 目の前に注がれた紅茶がどれほど良い香りを立てていても、マリアが落ち着いていられるはずもなかった。
 相変わらずリズロッテ王女からの鋭い視線を感じ続けていたし、テーブルの角を挟んで座っている大公夫人の注視もある。
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