【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 マリアの心を悩ませているのはジルベルトへの心配だけではなかった。
 最終日の舞踏会に、マリアも正式に招待を受けているのだ。

 ジルベルトに訴えて、たかが下働き上がりの自分がそのような場に出るものではないと、何度も断ろうとした。
 
『——私は、あなたが想像なさっているような家柄の者ではありません。貴族の爵位もありません。
 幼い頃から母と私に辛くあたり、死ぬまで一度も笑顔を見せてくれなかった父の顔すら、もう忘れてしまいました。
 読み書きも、常識も礼儀作法も、すべて母から教わりました。他の知識を得ることができたのは、父がなけなしのお金をつぎこんで集めた本を読んでいたからです。
 私には……母だけでした。
 ですから私は、舞踏会に招待いただく資格など無いのです』

 マリアの『答え合わせ』を聞いたジルベルトは「そうか」——と短く呟いた。

 碧い瞳にわずかな落胆の色を見せたが、マリアを優しく抱き寄せて言った。

『たとえマリアが何者であっても、俺のこの気持ちは変わらない』
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