【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 静寂の獅子宮殿に人の気配はない、銅像のように立つ衛兵がいるだけだ。
 彼らを横目に脇の廊下に逸れると、廊下の突き当たりにある扉を勢いよく叩いた。
 
 返事がないのでドアノブに手をかけて押せば、扉はすんなりと()く。
 傾きかけた日差しが燦々と差し込む明るい部屋はがらんとしていて、人の気配はない。
 途端、部屋に所狭しと置かれた花々の甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「にゃー」

 足元に気配を感じれば、仔猫がジルベルトを見上げている。

「……ジル、マリアはもう部屋を出たのか?」

 片手のひらで包み込み、仔猫の身体をそっと持ち上げる。
 目線を合わせれば、仔猫はジルベルトと同じ二つの碧い()を、まるで責めるように眇めるのだった。

「ひと足遅かったのだな……」
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