【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 まずは、自分が現皇太子であることを伝えねばならない。

 ジルベルトが第三皇子だと、更には長兄セルべウスがまだ生存するものと思い込んでいるはずだ。
 そうさせたのは自分であって、その責任をいつかはきちんと取らねばならぬと考えていた。

 (おおやけ)の場に招待したのだから、当然の事ながらこれ以上隠し通すことは出来ないだろう。

 窓際の鏡台の上にふと見覚えのあるものが目に入る。
 星祭りの遊戯場で選んだ、あのみすぼらしい猫の編みぐるみだ。

 ——あんなものを、まだ持っていたのか。

 躊躇いながらも部屋に入り、編みぐるみを手に取ると。
 綻びが丁寧に縫い直され、見違えるほど綺麗になっている。

『いいえ、あなたが三本の矢を命中させた《《ご褒美》》ですから。これにします、これがいいです!』

 あの日の無邪気な笑顔が眼裏(まなうら)によぎる。
 決して高価なものでもない、拾い物のようなこの猫を大切にしているのだと思うと、それだけで愛おしさが込み上げた。

 ——皇太子を怖がるマリアに身分を誤魔化し、嘘をついた事を謝りたい。大切な君を失うのを恐れ、臆病だった事を許してくれるだろうか。
 皇太子は俺なんだと明かしても、もう怖がらずにいてくれるだろうか——。
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