【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

ふたりの『王女』

 *


 そして——『鳳凰の間』の扉は開かれた。

 途端、楽団の壮麗な音楽が溢れ出る。
 大広間の中央にはすでに踊りの輪が出来ていて、それを囲むように人々が立っていた。

 踊りを注視する夫婦もいれば、互いに扇子で顔を隠し合いながら雑談に話を弾ませる夫人たちもいる。
 シャンパンを飲み干す者やフルーツをほおばる者たちもいて、皆それぞれが好きに振る舞っているようだ。

 押し寄せる煌びやかさに頭の奥がくらりとして、マリアは目を閉じた。
 皇宮では一人で過ごす時間がほとんどなので、《《人いきれ》》に怯んでしまう。

「おっと、失礼」
「……すみませんっ」

 白髪の顎髭を蓄えた紳士とぶつかりそうになり、目を伏せておじぎをした。勲章がたくさん付いた立派な軍服が視界に入ってくる。
 顔を上げると目が合って、紳士は胸に手を当てて薄く微笑んだ。

 そのまま大広間の中に入って行くが、紳士の妻らしき夫人の背中を叩くとこちらを見ながら何か呟いている。
 夫人が振り返り、ふるりとかぶりを振った。

 ——あの令嬢を知っているか、とでも話しているのかしら……。

 一歩進むごとに好奇の視線を感じる。
 大広間に現れた見知らぬ美しい令嬢に、周囲が見惚れているのだ。
< 445 / 580 >

この作品をシェア

pagetop