【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 だが緊張のせいで、マリアにはまるで面識のない者、正体の知れない者を排除しようとするかのように見えた。

 にわかに怖くなって、身体をこわばらせる。
 人の目にはできるだけふれたくない、早く壁際に移動したい! そう思っていると、

「マリアさん」
 聞き覚えのある声がした方を見れば、

「リズロッテ様……」

 控えめだが品のある意匠のドレスを纏ったリズロッテ王女が、温度を感じさせぬ表情で立っている。
 いつも彼女にくっついている二人の令嬢は、今はいないようだ。

「少し、よろしいでしょうか」

 無表情で淡々と、とでも言うべきか。
 怒るでも笑うでもないアーモンド型の瞳がマリアを「こっちに来い」と促している。

 羽飾りの付いた夜会巻きの後ろ姿に導かれるまま歩めば、人の少ないバルコニーに出た。
 
「あなたが大広間(ここ)に来るとは思いませんでしたから、廊下でお見かけした時は驚きましたわ。てっきり公には出される事のない、《《隠された王女》》だと思っていたので」

 一気に背筋が凍りついたのは、冷たくなり始めた夜風のせいではないはずだ。
 振り返ったリズロッテの表情は変わらない。

「 ——リュシエンヌ王女は、あなただわ」
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