【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 人からその名を呼ばれたのはバラ園で聞いたあの声以来だ。
 それを同じ声色で呼ぶのは、紛れもなく目の前でマリアを見据えるリズロッテその人だった。

「バラ園で私の名を呼んだのは、やはりリズロッテ様だったのですね」

 リズロッテはほくそ笑む。
 一か八か《《カマ》》をかけた気でいたが、皇宮への侵入者がとうとう尻尾を出した、と。

「ご安心ください。まだ誰にも話しておりませんから」

「気付いていたのなら、なぜ後宮のお茶会の席で私の正体を明かさなかったのですか……。国への支援を求めていらっしゃったのなら、私を突き出してあなたの手柄とするのが早かったでしょうに」

「初めはそのつもりでした。でも……あなたはわたくしを、祖国フォーンを救ってくださいました」

 マリアは目を丸くしたが、憂いを帯びた眼差しをすぐに伏せた。

「いいえ、救いの手を差し伸べられたのはジルベルト殿下です。私ではありません」

「たとえ皇太子殿下がフォーンの行く末を案じて橋梁工事を進めていらっしゃったとしても、王都の街に溢れかえる失業者の事までは考えていらっしゃらなかったでしょう。彼らを救ってくださったのはマリアさん……いいえ。リュシエンヌ王女、あなたですわ」

 それでもマリアはかぶりを振る。
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