【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 自分でも不思議だった。

 いよいよ正体が明かされようと言うのに、マリアの心は、青い空にゆったりと雲が流れるように穏やかなのだった。

「リズロッテ様の思うようになさってください。私から申し上げることはありません。殿下のおそばにいたい……初めから今日まで、その想いだけを抱えてきました。これ以上、望むものはありません。たとえ正体が知られ、この身に刃が向けられる日が来ようとも」

 リズロッテを静かに見つめる潤んだアメジストの瞳には、もう驚きや恐れは見えなかった。
 むしろ死の影さえも包んでしまう真綿の心のように、柔らかな笑顔を浮かべて言うのだった。

「あろうことか殿下を……私を追い求め、殺そうとする人を『愛して』しまったのです。愛する人の手で命を絶たれるのなら、喜んで受け入れます」

 大広間から漏れ聞こえる楽団の乾いた演奏が二人の耳をかすめていく。

「あなた……本気で言ってるの……?」

 嘘か、(まこと)か——
 真実を見極めようとするリズロッテの鋭い視線が刃のようにきらめき、マリアを捉えて離さなかった。
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