【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 皇太子の思いがけない登場に息を呑んだ。
 状況を知らぬジルベルトは、探しあぐねたマリアを見つけて機嫌が良いようだ。

「皇太子殿下にご挨拶申し上げます」

 リズロッテは平然と淑女の礼をするが、ジルベルトは気が気ではない——マリアに正体を明かす前に『皇太子』と呼ばれてしまったのだから。

「……ではマリアさん。わたくしはこれで」
 ジルベルトとマリアを順に一瞥し、リズロッテはその場を離れた。

 夜の帷を降ろした空には星々が白く輝いている。
 冷たくなったマリアの頬を、夜風が慰めるように撫でていった。

「ッ、その……。話が、あるのだが」

 ジルベルトはいつになくそわそわしているが、マリアの方も穏やかではない。
 騒めく心をどうすれば良いかわからず、目を逸らせてうつむいてしまう。

「……マリア」

 薔薇の花びらを幾重にも重ねたようなドレスが愛らしい顔立ちを惹き立たせている。
 マリアの華奢な肢体は、広間から漏れる薄明かりの中に妖艶な輪郭を描いていた。
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