【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 正体を偽っていたことをやはり怒っている……?
 いや、後宮での一件以来、友人関係にあるものと思っていたリズロッテ王女にまた心ない事を言われたか。

 ——俺がこんな舞踏会(針の筵)に呼んだせいで。

 沈みそうになる心を奮い立たせ、細い指先を掴めばぐいと引いて歩き出す。 精一杯の笑顔を見繕い、肩ごしに振り返った。

「踊ろう、マリア」
「ぇ……?」

 少々強引な大円舞への誘い。
 当然、相手を戸惑わせてしまうことは知っていた。

「ジルベルト……?! 私、ダンスなんて……っ」
「いいから」


 ——マリアを疎んじる者たちがいるのならば、知らしめてやればいい。
 皇太子がこれほど大切にしている人なのだと。


 人々でごった返す大広間を横切り、中央の踊りの輪の中に割って入る。
 招待客たちが驚いて道を開けた。

 何組かの男女が舞うなかに堂々と立ち、互いに向き合う。
 盛装に身を包み、胸に手をあてて一礼をするジルベルトは、いつにも増して凛々しく美しい。
 
「あなたと踊る最大の名誉と無性の喜びを与えてください。どうかこの俺と……最初のダンスを」

 マリアは息を呑む——まるで時が止まったようだった。
 
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