【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
穏やかな曲を演奏していた楽団の何人かが気付いてそわそわし始める。
団長である指揮者が振り返ると——美しい令嬢を連れた皇太子が踊りの輪の中に入り、今まさに令嬢に向かって一礼をしているところだった。
慌てて団員に目配せをして曲を変える。
ジャン! というワルツの始まりの旋律とともに、皇太子の周囲でふたりを気遣いながら踊っていた者たちが、一斉に踊りの輪を離れた。
残されたのはジルベルトとマリアだけだ。
皇太子と見知らぬ令嬢に注目する大勢の視線に、マリアの心が怯む。
背中に冷たいものが流れ落ちた。
「私っ……やっぱり無理です……! こんなに大勢の人の前で踊ったことなんてありません」
ジルベルトは手袋をはめたマリアの手を持ち上げて細い指先に優しいキスを落とすと、そのままぐい、と引き寄せた。
「マリア、俺を見て」
秀麗な面輪が大写しになって、碧い瞳に視界の全てが奪われる。
「踊れるのだろう? 隠さなくていい。立派な母君が全てを君に教えたはずだ」
「で……も……っ」
「大丈夫。ちゃんとエスコートするから、俺だけを見ていて」
優しい笑顔と頼もしい言葉が、マリアの硬くなった心をゆるゆると融かし、満たしていく。
団長である指揮者が振り返ると——美しい令嬢を連れた皇太子が踊りの輪の中に入り、今まさに令嬢に向かって一礼をしているところだった。
慌てて団員に目配せをして曲を変える。
ジャン! というワルツの始まりの旋律とともに、皇太子の周囲でふたりを気遣いながら踊っていた者たちが、一斉に踊りの輪を離れた。
残されたのはジルベルトとマリアだけだ。
皇太子と見知らぬ令嬢に注目する大勢の視線に、マリアの心が怯む。
背中に冷たいものが流れ落ちた。
「私っ……やっぱり無理です……! こんなに大勢の人の前で踊ったことなんてありません」
ジルベルトは手袋をはめたマリアの手を持ち上げて細い指先に優しいキスを落とすと、そのままぐい、と引き寄せた。
「マリア、俺を見て」
秀麗な面輪が大写しになって、碧い瞳に視界の全てが奪われる。
「踊れるのだろう? 隠さなくていい。立派な母君が全てを君に教えたはずだ」
「で……も……っ」
「大丈夫。ちゃんとエスコートするから、俺だけを見ていて」
優しい笑顔と頼もしい言葉が、マリアの硬くなった心をゆるゆると融かし、満たしていく。