【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 ——私だけならどんな恥をかいても受け入れられる。でも今ここで拒めばジルベルトにまで恥をかかせてしまう。それだけは、だめ……っ。

 目の端にちらりと見える楽団の指揮者が、演奏を始めるタイミングを見計らっているのがわかる。
 彼らの手をこれ以上とめておくわけにはいかない。

「………はい。身に余る光栄な申し出を、謹んでお受けいたします」

 そして一歩下がり、妖精のドレスの端をつまみあげると。
 マリアは人々がため息を漏らすほどに優雅なカーテシー(淑女の礼)を披露したのだった。

 楽団の指揮者がほっとした表情を見せる。
 戸惑うような令嬢の様子が気にかかり、演奏を始めるのをためらっていたのだ。

 タクトが振られ、帝国一を誇る楽団の素晴らしい演奏が始まる——誰もが見惚れる精悍な皇太子と、完璧なエスコートを受けながら花のように舞う、可憐な令嬢のワルツとともに。

「あの美しいご令嬢はどなたですの……?!」
 そんな言葉が口々に囁かれた。

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