【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 大広間を出るまでは、波打つ心を隠してどうにか平静を装っていられたと思う。

 ワルツが流れているあいだ、マリアを気遣ったフェリクスが他愛のない会話で気を紛らわせようとしてくれたが、話の内容など全く入ってこなかった。

 外の風に当たった方がいいと言うフェリクスの誘いを丁寧に断り、コルセットが苦しくてと下手な言い訳をして大広間を出たのだった。

 本当はメイドを呼んでドレスを脱ぐのを手伝ってもらうべきだろう。
 だけど人と会う気力なんてほんの少しも残っていなかった。

 ふらふらと寝室に向かい、姿見を背にして時間をかけて重いドレスを脱ぐ。
 コルセットを外し終えた頃には、へとへとに疲れ果てていた。

 薄い膚着一枚の姿で、寝台に横になる。

『俺だけを見て』
 ジルベルトの微笑みが目蓋の奥を掠めた。

 あの優しい眼差しをラムダにも向けるのだろうか。
 怖くて見られなかったけれど、二人がワルツを踊る姿を想像すれば胸の奥が刃物で斬りつけられるように痛くなる。

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