【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

空っぽの手のひら

「あの……」

 寝室を覗けば——寝台を離れたジルベルトが窓際に立ち、窓の外を見上げている。
 薄暗い寝室で月明かりに白々と照らされた美麗な面輪は、独房でふたりが出会ったあの夜を思い出させた。

「マリア、おいで。ウェインで見た月と同じなんだ」
「私も今ちょうど、あなたと初めて会ったときの事を考えていました」

 そばに立てば、凛々しい腕に肩を抱かれる。

「……懐かしいな」

 月を見上げる碧い瞳には、独房にいた時のような弱さや憂いは微塵もなくて。
 どこまでも強い自信と威厳に満ちて、力強く煌めいている。

 いつまでもこの人のそばにいたい。
 一緒に歳を重ねて、この人の治世を隣で支えていきたい……。

 
 ——どれほど願っても、叶わぬ想い。


「これを、お返ししようと思って」

 胸に抱くようにして持っていた鍵を差し出した。
 穏やかだったジルベルトの表情が虚を突かれたようになる。


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