【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 言ってはいけない事を言った気がした。
 だが一度放った言葉は、もう取り戻せない。

「私には、アスガルドで……あなたのそばで権力を持つ資格などありません……お返しします」


 ——私はシャルロワの王女、リュシエンヌなのだから。


 ジルベルトの胸元に、両手で握りしめた鍵を突き出した。
 見開かれた瞳がマリアの拳をじっと見つめている。

 一瞬が、とても長い時間に思えた。

「……わかった。無理強いはしたくない」

 差し出された手のひらに重みのある鍵を置くと、今度はジルベルトの拳がそれをぐ、と強く握る。拳を下ろすとマリアに背を向けて、失望に満ちた眼差しで肩越しに見遣った。

「俺のそばにいるための(権力)は要らぬという、マリアの気持ちは良く理解した。今後の君の身の振り方をフェルナンドと話し合って決める。それまで沙汰を待て」

 寝室を出ていくジルベルトを追うことが出来ない。
 大きな背中が振り返る事はなく、そのまま部屋を出て行ってしまう。


 ——今後の、身の振り方……?

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